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2010年2月16日 (火)

鍼灸の国際標準化と鳩山総理の発言

鳩山総理が、医療費削減のために統合医療を進めていきたいとコメントしましたね。

とはいえ、これは、かなり難しいチャレンジです。

なぜかというと、日本には伝統医療の各分野で業界団体が乱立していて、国内標準と言うべき考え方が未整備だからです。

患者不在の派閥争いの中で、行政が整備を進めようとしても、誰と交渉したら良いのか分からない、というのが現状です(西洋医学も東洋医学も、ことこの分野では全く同じ状態ですね。。)

でも、実は、経絡(ツボをつないだ線です)を国際規格、国際標準として整備しよう、という動きがあるんです。

鳩山総理は、医療費の削減という観点だけではなく、国際規格化、国際標準化の中で日本の立場を有利に働かせるためにも、統合医療を進めるという発言をしたのだろうと思われます。

中国は、国を挙げて「国際中医師」という資格制度を整備し、全世界に展開することで、中医学を輸出し、国際規格の中心に据えようとしています。

経絡や鍼灸というと中国が中心と考えがちです。しかし、現在、世界保健機構(WHO)が定めている鍼灸の経穴(ツボのこと)の大半は、韓国の伝統的な考え方が基準になっています。国際的に使われているツボの図などは、韓国流なのです。韓国は、WHOという世界的な保険機構が韓国流を採用しているのだから、韓国流を国際標準の中核に据えるべきだと主張しています。

そうだ、みなさん、国際規格って何だかご存じですか?国際規格にもいろいろありますが、一番有名なのはISO:International Standard Organizationでしょう。

ISO14001は環境の国際規格。ISO9001は品質。ISO/IEC27001は情報セキュリティ。認証を取得しました、という看板や広告など、見たことありますよね?

国際規格ができると、これを参考にして国内の標準を整備します。たとえばISO/IEC27001を元にした日本の標準はJISQ27001と言います。JISって、ネジとかにもマークがついていますよね?あれのことです。ある分野がISO化され、日本国内でJIS化されると、事実上、それ以外の物を作っることが難しくなります。

でも、これはあくまでも物作りに限った話し。サービス分野がJIS化されたとしても、サービスが確一化されるわけでもなく、わりといい加減なものです(主任審査員の私が言うんですから間違いありません♪)。

ですから、韓国流が国際規格になっても、中国流が国際規格になっても、それ以外の治療ができなくなるということはなく、日本の治療師が困ることはないんです。

また、一度作り上げられた規格であっても、数年に一回は必ず見直しをしなければいけないことになっているので、後からいくらでも発言をするチャンスはあります。

例えば、情報セキュリティに関して言えば、イギリスのBSという規格が中心になりました。でも、情報セキュリティの認証を一番整備しているのは日本です。規格を作った段階では日本はほとんど発言権がありませんでしたが、規格ができた後に真面目にたくさん運用したので、規格を改訂するときには、日本の意見がたくさん反映されたんです。

ですので、日本政府が日本国内の意見を統一することができず、韓国と中国だけが規格を整備したとしても、日本の施術者はあまり困らないだろう、と思っています。

でも、患者側の立場にたつと、実は、日本の経絡刺激の考え方が全く反映されずに国際規格化されるというのは、著しく不利益なことなのです。

日本の伝統的な鍼治療を受けられたことがある方はよくご存じのとおり、日本の鍼治療、痛くないんです(痛みを重視するのは中国式)。

同じ効果を得るのに痛い治療と、痛くない治療、どっちが嬉しいですか?

そう、日本の意見が初めから採用されない、ということは、この「痛くない」「刺さない(こともある)」鍼治療が世界に伝わっていくスピードが遅い、ということです。

国際規格化の整備は、本当に地道で、嫌になるほどうんざりする作業です。私も、情報セキュリティの時にはまだ20代で比較的元気だったからこそ、じみーな翻訳作業をコツコツと行い、意見を収集し、国と交渉する、という作業をボランティアで行いましたが、この歳になると、なかなか・・・・

しかも、経絡の分野となると、英語が流暢に話せる人そのものが少なく、資料の読み込みすら困難を極めることが容易に想像できます。

さて、そうはいっても、日本の伝統医療、世界的に見ても体への負担が少ない、優れた療法であることには間違いがありません。

厚生労働省は、どうやってメンバーを集めて、どう標準化を進めていくつもりなのか、しばらくは動向を見守りたいと思います(翻訳だけなら、やってもいいですけどね・・・)。

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